固形培地中で生育する多肉植物の培養方法

大切なことなので全文引用

固形培地中で生育する多肉植物の培養方法
特許請求の範囲
【請求項1】 1〜5mg/lのサイトカイニンを含む植物培養用固形培地中で植物体を培養することを特徴とする固形培地中で生育する多肉植物の培養方法。
【請求項2】 固形化剤としてゲランガムを0.3〜0.35%w/vの濃度で含むことを特徴とする固形培地中で生育する多肉植物の培養方法。
【請求項3】 組織片を照度3, 000〜10, 000lux、1サイクルを24時間として14〜18時間明期、10〜6時間暗期の長日条件で培養した後に、9〜12時間明期、15〜12時間暗期の短日条件で培養することを特徴とする固形培地中で生育する多肉植物の培養方法。

発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、植物バイオテクノロジー分野における植物体の培養方法について、特に、固形培地中で生育する多肉植物の培養方法に関する。
【0002】
【従来の技術】多肉植物とは、葉、茎や根などが肥大して水分を蓄積し、乾燥に耐える植物の総称である。多肉植物は、多くの科と属の植物が含まれていて、その原種は1万種以上になる。多肉植物は、病害虫にも強く、花だけでなく葉や茎の形もエキゾチックなものが多く、また、寄せ植えやハンギングバスケット植えといった鑑賞の楽しみがあるため人気のある植物である。最近では、園芸交配種も盛んに作られ、ベンケイソウ科の花月トウダイグサ科のキリン類、ユリ科アロエといった昔から栽培されていたもの以外にも、メセンブリアンテマ科のリトープスやベンケイソウ科の黒法師などが園芸品種として有名である。
【0003】この植物は、雌雄異株のものがあったり、種が細かかったり、交配の困難さや、また、種から増やしても大きく成長するのに時間がかかるといった点から、増やし方には、葉ざし、挿し木、株分け等が一般的に行われている。しかし、新しい品種や優秀な個体を作り出す場合、上記の方法では難しく、生産能率も極めて低い。したがって、本発明者によって、草本類で行われている組織培養技術を応用して、無菌的に組織培養する方法が開発され、特願平6-232639号公報に開示されている。
【0004】さらに、この植物の新しい育成方法として、多肉植物の茎や葉の表面のクチクラ層が発達し、葉からの蒸散を防ぐ性質を利用した、固形培地中で生育する多肉植物の培養方法が開発されている。この培養方法による植物体は、固形培地中で花のように見えることから「寒天花(かんてんか)」と名付けられている。寒天花とは、上記培養方法を利用して、固形培地を使用した組織培養において、本来支持体の働きをする寒天中に多肉植物を生育させたものである。以下の本明細書中では、この固形培地中で生育する多肉植物を寒天花と呼ぶこととする。多肉植物が大気中ではなく、固形培地の表面から培地内部に向かって成長していくという生育方法の特異性から、寒天花培養の技術は、多肉植物の新たな鑑賞方法を提供する。寒天花の形状及び植物体の上向きの成長を抑制するための光の照射方法、置床方法、培地量の調節などが特願平6-58542号公報に開示されている。この方法によれば、多肉植物を培地の表面から培地内部に向かって成長させることができる。
【0005】培養容器内で生育させた組織や植物体は、水分を含んだ緑色のガラス様の透明感ある状態になるビトリフィケーション(vitrification)を起こすことがある。ビトリフィケーションを起こすと、葉や茎の組織の内部に水が浸潤し、気孔の発達が貧弱となる。多肉植物を固形培地中で生育させた場合、ほかの組織培養と比較してビトリフィケーションが生じやすい。そのため、一般に使用されている0.8%w/v寒天濃度では100%の個体がビトリフィケーションを起こすため、従来の多肉植物を固形培地中で生育させる技術では、1%w/v寒天濃度の培地で培養を行っている。
【0006】花芽形成を誘導するために、一般的に行われている組織培養では、培地中に植物成長調節物質のアブシジン酸(abscisicacid、以下、「ABA」と略す)を添加する方法が取られる場合がある。鉢植えの多肉植物では、花芽形成の誘導には、水やりを止めるなどの方法で水ストレス(水分欠乏)を起こさせる。これは、ABAが水ストレスによって急激に増加するという生理作用を利用したものである。
【0007】一般に、植物の組織培養では、組織片からカルスを誘導し、そのカルスにインドール-3-酢酸、1-ナフタレン酢酸、2, 4-ジクロロフェノキシ酢酸などのオーキシン及びカイネチン、ゼアチン、ベンジルアデニンなどのサイトカイニンを比率を変えて添加し、根、茎葉などの器官を形成させる。オーキシン及びサイトカイニンの濃度はそれぞれ、0.02〜5mg/lである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、特願平6-58542号公報に開示された方法では、図3の(A)に示すように、支持体3中の新個体2の成長以上に根6が成長し、発根量が増加してしまう。そのために、新個体2の生育が阻害されたり、根6が培養容器4を覆ってしまい、培養容器4の外から支持体3中の植物体が見えにくくなり、鑑賞価値が下がる。
【0009】さらに、従来用いられる1%w/v寒天の濃度では、寒天が固化するため、図3の(B)に示すように、植物体の成長に伴って、支持体3が割れてしまい、この割れ目7によって生じた気層の影響で支持体3内の植物にかかる圧力差が生じ、肥大した新個体8が生じる場合があり、外見の見栄えが悪く商品価値が下がる。
【0010】多肉植物でも、メセンブリアンテマ科のリトープスなどのように、花が咲く種があり、多肉植物栽培における楽しみの1つとなっている。しかし、植物体が固形培地中で成長していく場合、組織の老化や休眠促進の作用も持つABAを置床時に培地中に添加することはできないし、新たにABA添加培地に植え替えることも製作過程上、不可能である。また、植物を閉鎖系で培養し、さらに十分に水を保持した固形培地中で生育させるため、水ストレスによって植物体内のABAを増加させる手段を取ることもできない。そのため、固形培地中に生育する多肉植物に花芽形成を起こさせることはできなかった。
【0011】したがって、本発明は、むやみな発根を抑制し、支持体が割れることなく、花芽形成を起こすような多肉植物の固形培地中での育成方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記目的解決のため、本発明者らは、培地の組成、照明時間等の培養条件を新たに設定して、多肉植物を固形培地中でさらに良好に培養する技術を開発することができた。
【0013】すなわち、本発明は、1〜5mg/lのサイトカイニンを含む植物培養用固形培地中で植物体を培養することを特徴とする固形培地中で生育する多肉植物の培養方法を提供する。この培養方法によって固形培地中で多肉植物を培養すると、図3の(A)に示すようなむやみな発根をせず、生じる新個体の数も増加するので、見栄えのよい植物体が得られる。
【0014】また、本発明は、固形化剤としてゲランガムを0.3〜0.35%w/vの濃度で含むことを特徴とする固形培地中で生育する多肉植物の培養方法を提供する。この培養方法によって固形培地中で多肉植物を培養すると、図3の(B)に示すような支持体の割れがなく、支持体の透明度も増加するので鑑賞価値も上がる。
【0015】さらに、本発明は、組織片を照度3, 000〜10, 000lux、1サイクルを24時間として14〜18時間明期、10〜6時間暗期の長日条件で培養した後に、9〜12時間明期、15〜12時間暗期の短日条件で培養することを特徴とする固形培地中で生育する多肉植物の培養方法を提供する。この培養方法によって固形培地中で多肉植物を培養すると、メセンブリアンテマ科のリトープスなどのように、花が咲く種を固形培地中で培養した場合には、従来の培養方法ではできなかった花芽形成を誘導でき、花を咲かせることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
発根抑制処理多肉植物の外植体を植物ホルモン無添加の培地、又はオーキシン無添加の培地で培養した場合、カルスを形成せずに、直接新個体を生じる。したがって、根の発根を促進する作用を持つオーキシンを添加しないことによって、発根を抑え、さらに、高濃度のサイトカイニンを添加した培地で培養することによって、根の成長阻害が生じ、根の本数を従来の1/10以下にすることができる。用いるサイトカイニンとしてはカイネチンが望ましい。カイネチン濃度は1〜5mg/lが好ましく、5mg/l以上であると植物体全体の成長が阻害され、1mg/l以下であると望ましい発根抑制効果が得られない。
【0017】この場合、ホルモンを添加する培地の種類は、一般的に植物組織培養に用いられているものならば全て応用可能であるが、特にMurashige-Skoog培地(以下、「MS培地」と略す)を用いるのが好ましい。さらに、1.5〜3%w/vのショ糖を添加するのが好適である。MS培地の組成は、現在一般的な文献等(例えば、「生物工学実験書」、日本生物工学改編、p381、1992年、培風館刊)に記載されているものと同様である。
【0018】また、上記ホルモン濃度で多肉植物の外植片1を培養すると、図1の(A)で示すように、新個体2の頂芽の成長を抑え、従来では1つの外植片1から支持体3の中に側芽が3〜4個しか生じなかったのに対し、15〜40個の側芽を生じさせることができる。これによって培養容器4内の新個体2の数を多くすることができるため、見栄えのよい寒天花ができる。さらに、新個体2の葉が大きく成長するのが抑えられるために、従来技術では葉が7mm幅平均のものが3mm幅平均となり、新個体2の数が増えても新個体2のそれぞれが重なり合うのを防ぐことができる。
【0019】支持体の割れ防止処理ゲランガム(Gellan gum)とは、シュードモナス属のPseudomonas elodeaが生産する多糖類を脱アセチル処理後、精製したもので、グルコース、ラムノース、ウロン酸が主成分である。ゲランガムは寒天に比べ、ゲルが透明であり、490nmの光透過率が70%以上であるという特徴を持つ。本発明では、ゲランガムは、従来技術による固形化剤である寒天に変わるものとして使用してもよく、寒天に加えて使用することもできる。好ましくは、従来、固形化剤として使用していた1%w/v寒天の代わりに、ゲルライト(シグマケミカル社製、又はメルク社製)を、培地の体積に対する重量で0.3〜0.35%w/vで添加する。それによって、新個体の成長に伴って生じる割れ目を防止できる。また、ゲランガムを含む培地の透明度は高いので、培地を通して新個体に当たる光の量が増加し、新個体の成長が2割程度増加する。さらに、従来の寒天を含む培地では、植物体が白いベールに包まれているように見えたのに比べ、透明度の増加によって、寒天花がよりクリアーに見えるため、商品としての価値が高まる。
【0020】花芽形成の誘導寒天花花芽形成を起こさせるために、培養直後は長日条件下で培養し、その後、短日処理下で培養するのが好ましい。ここでの長日条件は、照度3, 000〜10, 000luxで1サイクルを24時間として、14〜18時間明期、10〜6時間暗期、特に、16時間の明期と8時間の暗期が好ましく、短日条件は照度3, 000〜10, 000luxで1サイクルを24時間として、9〜12時間の明期、15〜12時間暗期、特に約10時間の明期と約14時間の暗期が好ましい。長日条件及び短日条件下での照度は5, 000luxがもっとも好適である。3, 000lux未満であると、植物体の成育状況が悪くなり、10,000lux以上であると、葉が腐るなどの悪影響がでる。窒素量、温度、湿度などについては花芽形成が可能な条件を用いる。上記のように培養すると、短日処理後、約3週間で花芽が形成され、その後、花を咲かせることができる。また、この条件で培養すると、リトープス科の場合には見苦しい脱皮をおこさず、鑑賞価値がより高まる。
【0021】
【実施例】以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、これらにより本発明を制限するものではない。
発芽抑制処理実施例1、2虹の玉(ベンケイソウ科)の葉を切り出し、水道水で洗い、超音波洗浄器で10〜30秒処理した。これをクリーンベンチ内で、70%エタノールにより30〜60秒、ついで、有効塩素量最小5%の次亜塩素酸ナトリウム(アンチホルミン)を1%に希釈し、界面活性剤(Polyoxyethylene(20)SorbitanMonolaurate:和光純薬製)を1滴加えた溶液により15〜30分殺菌し、滅菌水で十分に洗浄した。殺菌後、カイネチン濃度を実施例1では1.0mg/l、実施例2では5.0mg/lとしたMS培地、又は同じカイネチン濃度の1/2MS培地(無機塩類濃度がMS培地の1/2で、ビタミン濃度はMS培地と同様な培地)を調製し、固形化剤として寒天(植物培地用AgarPowder、和光純薬社製)を添加した。この培地を15〜20ml分注した直径25mm深さ150mmの培養用棒びんに1個体を全長の1/2が培地内に埋まるように置床した。この培養用棒びんを培地の入っているところ以外を覆って遮光し、培地の入っている部分だけに光が当たるようにして25℃、5, 000luxで18時間明期、8時間暗期の培養条件で70日間培養し寒天花を作成した。
【0022】比較例1〜6カイネチン濃度のみを表1のように変えて、実施例1、2と同様な条件で培養した。実施例1、2及び比較例1〜6の結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】発根率は置床した葉片から10本以上の根が生じた個体数の全体に対する割合である。葉の大きさは、葉の長径を求めた。以上の結果から、カイネチンを1〜5mg/lの濃度で培地に添加した場合、置床片からの発根を10本以下に抑えられることがわかった。1/2MS培地よりMS培地を用いた場合の方が、発根率及び葉の大きさの点で良好な結果が得られた。
【0025】支持体の割れ防止実施例3実施例1、2に示した方法で葉を殺菌し、70日間実施例1、2に示した条件で培養した。培地は、MS培地にカイネチン1.0mg/l、スクロース3%w/vを添加し、pH5.8に調製したものに、固形化剤としてゲランガムを培地の体積に対する重量で0.3%w/v加えたものを用いた。
【0026】比較例7〜9固形化剤として、比較例7は寒天1%w/v、比較例8はゲランガム0.2%w/v、比較例9はゲランガム0.5%w/vを加えた以外は実施例3と同様の培地を用いて、実施例3同様の条件で培養した。実施例3及び比較例7〜9の結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】「+」はビトリフィケーションを起こしたものを示し、「-」はビトリフィケーションを起こさなかったものを示す。以上の結果より、固形化剤としてゲランガムを0.3%w/v添加すると、ビトリフィケーションをおこさず、割れ目も生じないことがわかった。
【0029】培地の透明度実施例4固形化剤としてゲランガムを0.3%w/vの濃度で添加したMS培地について、400〜700nmの波長の光の吸光度を測定した。リファレンスは蒸留水を用いた。結果は図2に示す。
【0030】比較例10固形化剤として従来使われている寒天を1%w/vの濃度で添加したMS培地について、波長400〜700nmの波長の光の吸光度を測定した。リファレンスは蒸留水を用いた。結果は図4に示す。実施例4及び比較例10の結果から、固形化剤としてゲランガムを用いた場合は、従来使われていた寒天を用いた場合に比べて光の吸収が起こらず、培養中の新個体に光が十分当たることがわかった。
【0031】花芽形成誘導実施例5、6メセンブリアンテマ科のリトープス及びキク科のマツバギクの葉片を実施例1、2の方法と同様に殺菌した。カイネチン1mg/l、スクロース3%w/v及びゲランガム0.3%w/vを含むMS培地に殺菌後の葉片を置床し、実施1、2同様の遮光処理を行って、5, 000luxで16時間明期、8時間暗期の長日条件下で、リトープスは30日間、マツバギクは70日間培養した。この長日条件での培養後、実施例5は10時間明期、14時間暗期、実施例6は12時間明期、12時間暗期として、さらに30日間培養した。図1の(B)に花5の咲いたリトープスを示す。
【0032】比較例11実施例5、6と同様に、長日条件下で30日間培養したリトープス及び70日間培養したマツバギクを長日条件での培養後、8時間明期、16時間暗期としてさらに30日間培養した。実施例5、6及び比較例11の結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
【発明の効果】上記したところから明らかなように、本発明によれば、サイトカイニンを1〜5mg/l含む培地で培養することによって、置床片からの発根、葉の重なりを防止でき、葉の過成長を抑えることによって従来の2分の1の大きさの寒天花が得られる。また、固形化剤として、ゲランガムを0.3〜0.35%w/vの濃度で使用することによって、支持体が割れるのを防止できると同時に、従来に比べ支持体の透明度が高く光を吸収しないため、成長も良好な寒天花の培養技術が提供される。また、従来技術では不可能であった寒天花の花芽形成を光処理により誘導でき、寒天培地中で開花させることができる。さらに、リトープス科を培養した場合には、この光処理によって脱皮もおこさない。したがって、これら本発明の技術によって、寒天花の鑑賞価値はより一層高まる。
http://www2.ipdl.inpit.go.jp/begin/BE_DETAIL_MAIN.cgi?sType=1&sMenu=1&sBpos=1&sPos=1&sFile=TimeDir_21/mainstr1276001901439.mst&sTime=1276001919

「寒天花」でググったが、それらしきものが見つからず。
天下の鈴木自動車が何の説明もなしに、リトープスの"脱皮"とか書いてるあたりに笑い所があるような気がする。いや、通じるけどさ。
何はともあれ、個人的には非常に有意義な内容。リトの葉挿し?カルス誘導?出来たら楽しいだろうなー。